鳰のような形をした僕の迂回路

My detour/diversion like a (little) grebe.

『おやすみ警報』ふかふか団地

第二十五回文学フリマ東京にて入手。4人の作者による短篇4本の合同誌です。以下、おのおの感想を書きます。

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 (表紙がキュート)

 

「Good Morning Glory」伝右川伝右

子供のころの一時期だけ会ってそれきりの友だちの記憶というのはけっこう後々まで印象に残っていて思い起こす都度みずみずしい憧憬を伴うんだけど本作にはそういう一夏の思い出のキラキラ感がしっかり表現されていると思うし、そこに人間が出来たやさしいおばあちゃんが出てくるもんだから心が温まらないわけがないんだよなあ。祖母:孫娘の関係性に脆弱性があることに気付かされてしまった。

 

The Queen Is Dead」尾瀬みさき

去年の『ニュータウン』に寄稿されていた短篇もそうだったけど、作者が書く主人公とヒロインの掛け合いがめっちゃ好きなんですよね。で本作のヒロインの設定はぼくの脆弱性を完全に突いてきていてぐおお……とかくああ……とか変な声でうめきながら読んだ。自意識過剰系の語りはむかし佐藤友哉とかを好んで読みまくってたのでスッと読めた。結末にかけては「ん?」なんだけどまあ「ん?」な部分も含めて好きです。

 

「ペーパードライバー短編集」さんらいと

「乱脈な気孔」が好きかな。ビール飲みながら読んでいたせいかもしれないけど所々でくすっと笑わせに来る。こういう読者にとっては日常的なことを大仰な語りで語ることでコミカルな印象を出してるんだと思うんだけど成功していると思う。とはいえ、その大仰な語りが鼻につかないというとそんなこともなかった。

 

「夢のとなり」愛宕

これが一番好き。設定とプロットを丁寧に織り込んでいって結末できちんと高ぶらせてくる。というかぼくは丸岡さんに完全に感情移入していて丸岡さんの気持に完全にシンクロしてしまって最後は普通に泣いた。いやぼくは声優にあまり興味がないので、そういう表面的なシンクロではなくて、もっとね、根っこの部分でシンクロさせられてしまったってワケ。欠点を上げるとしたら冒頭で設定を陳列しているところが退屈だった点か。とはいえこれは痛切な救済の物語でありオレたちの新しいアンセムだ。