鳰のような形をした僕の迂回路

My detour/diversion like a (little) grebe.

アド・アストラ


 

 アド・アストラを観た。君はアド・アストラを観てもいいし、観なくてもいい。

以下、致命的なネタバレがあるので閲覧注意だ!

 

  

 

  •  よかった点
    • 最初の軌道エレベーターのシーン、あまりの美しさに落涙してしまった。素晴らしい。
    • 月の描写:資源を巡る抗争、資本主義に彩られた空港、これらの描写は新鮮で、まことに素晴らしい。
    • 海王星軌道上でのシーン、海王星の表面、海王星の輪の美しさは素晴らしい。
  • 航空宇宙工学の観点からの疑問(この分野に関しては素人なので間違っているかもしれませんが)
    • 父親に声を届けるためだけにわざわざマクブライトを火星まで送る必要あった? 録音した音声を火星から送信するんじゃあダメなのか? それとも、マクブライトを宇宙軍の元に送るとか、別の目的があったのかな。
    • 火星から海王星まで、光速でも往復何時間もかかるのでは? マクブライトのメッセージ送ってすぐ宇宙軍の人たちが返事を期待する雰囲気になってるけど、さすがにせっかちすぎるでしょ。
    • マクブライトは火星から海王星まで八十日くらいで到達している(たしかに反物質ロケットだったら数日〜数十日くらいで海王星に着きそうな気がする)。一方、リマ計画で彼の父が海王星に到達するのにどれくらいかかったか。数年がかりという描写を見た気がしたけど、ぼくの間違い?
      • 合ってたとしたら、リマ計画以後に技術革新があって短くなったのか? ちなみにボイジャー2号は地球から海王星に着くまでに12年くらいかかっている。映画の雰囲気的に、マクブライトの父親もこれくらいの時間がかかって到達しているイメージを持っていた。
      • 間違っていて、リマ計画の時点で海王星まで八十日くらいで渡航できるなら、もっと調査のために海王星まで有人飛行していてもおかしくないのでは? リマ計画の失敗が、火星以遠への有人宇宙飛行を抑制していたということ? また、三ヶ月で帰れるなら、リマ計画の人たちも数年に一度地球に帰ったりしても問題ないのでは(費用はかかるが)? この場合、帰還をプログラムに組み込まなかった計画者が異常すぎる。
      • あれ? 本当は太陽系外に行こうとしてたけどトラブルで海王星付近に滞在してるって話なんだっけ? 俺にはなにもわからない……。
    • 反物質は要するに蓄電池みたいなもので、消費するものなんだけど、メルトダウンの意味がよく分からない。
    • 核反応を推進力に地球に帰ってくるのにかかった帰還はどれくらいだったのか。反物質ロケットでも八十日くらいかかっちゃうわけだし。外部の爆発の衝撃で有効な推進力を得られるのかというのと、狙った方位に行けるのかという心配が頭をもたげる。ある程度の方向転換は出来るだろうが……。
  • 物語
    • 父を太陽系の彼方へ行かせた。これは、マクブライトの中にあった父と宇宙への固執と孤独との決別を示す。できすぎたシーンだ、まるで夢のように。
    • 航空宇宙工学的な矛盾と考え合わせて、この映画の後半部分はすべてマクブライトの夢の中の話だろう。夢に入るタイミングにはいくつか候補がある。
      • 火星で父親に自分の言葉で語りかけるシーン。あそこでマクブライトの心拍数が80を超えたことが、現実と夢を区切っている。
      • 火星でケフェウス号に入るシーン。あんなにロケットの近くにいて無事なもんなのか?俺はこの分野に関しては素人だからよく分からない。あと学者たちが銃を持って有無を言わさず殺しに来るというのも現実離れしている。学者は対話が好きなんじゃないのか?
  • 総評
    • ドラマを優先した印象。宇宙でやる意味あるのか? 地球でやれ。西部劇にしろ。
    • この映画に宇宙はあるが、そこに物理はかよっていない。それにより直ちに作品を否定するものではないが、宇宙の美しさと壮大さを都合よく借りた、いびつでピクチャレスクな作品だ。